ストレスや苦しみの心理学的メカニズムと対処法 Part.1

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一般社団法人日本経営心理士協会代表理事の藤田です。

転職活動や就職活動をする上では面接を受けたり、慣れない新たな職場で働いたりするため、ストレスや苦しみを感じる場面は多々あります。
そういった場面において、ストレスや苦しみとどのように向き合うかは転職活動、就職活動に大きく影響します。そのため、ストレスや苦しみに対する向き合い方を知っておくことが重要です。

そこで今回はストレスや苦しみの心理的メカニズムと対処法についてお話ししていきます。 
(写真素材:iStock.com/bee32)
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藤田耕司(ふじた こうじ) 氏
(社)日本経営心理士協会代表理事、経営心理士、公認会計士、税理士
年商300億円超の企業から個人事業主まで、のべ1,200件以上の経営相談を受け、労務問題から営業、マーケティングなど、幅広い分野で人間心理と数字の両面から経営改善を行う。
その経営相談事例を基に、ビジネスで成功を再現し、失敗を回避する手法を経営心理学として体系化することで経営指導の成果を大きく高める。

また、経営心理学を体系的に学び、「経営心理士」の資格を取得するための経営心理士講座を実施。その講座の成果が口コミで広がり、日経新聞をはじめ複数のメディアから取材を受ける。金融庁や一般企業、税理士会等の士業団体などでの研修活動も行い、年間の講演回数は250回を超える。

◆藤田講師の詳細なプロフィール
◆藤田講師が担当している『LEC 経営心理士プレセミナー』
https://www.lec-jp.com/keieishinri/

感情が生じるメカニズムとは

今回のテーマに関してまず知っておいていただきたいのは、感情が生じるメカニズムです。
良い事が起きると嬉しい、楽しい、ありがたいという感情が生じ、嫌な事が起きるとつらい、悲しい、怒りといった感情が生じる。
感情ってそんな風に生じると思っている方も多いのではないでしょうか。
でも実はそうではありません。 
起きる出来事自体には「良い」「悪い」という意味はありません。
起きた出来事を認識して、その出来事に対して自分が無意識のうちに「良い」「悪い」という意味付けをしています。 
イメージイラスト(ストレスや苦しみへの対処①)
その結果、「良い事だ」という意味付けをすると嬉しい、楽しい、ありがたいという感情が生じ、「悪い事だ」という意味付けをするとつらい、悲しい、怒りといった感情が生じます。
つまり、生じる感情はすべて自分で決めているわけです。 

起きる出来事の本当の意味は今は分からない

そして、もう一つ大事なことは、起きた出来事に対する意味付けはその時々で変わるため、本当に良いことだったのか、悪いことだったのかは後にならないと分からないということです。
そのことを理解していただくために、「人間万事塞翁が馬」という話をご紹介したいと思います。 

中国の北の国境にある城塞の近くに占い上手な老人が住んでいた。
ある時、その老人の馬が北の胡の国の方角に逃げていった。
近所の人々は気の毒がって老人をなぐさめたが、老人は残念がる様子もなく言った。
「このことが不幸であるとは限らない」

しばらく経ったある日、逃げ出した馬が胡の良馬をたくさん連れて帰ってきた。
そこで近所の人たちがお祝いを言うと、老人は首を振って言った。
「このことが災いにならないとも限らない」

しばらくすると、老人の息子がその馬から落ちて足の骨を折ってしまった。
近所の人たちがかわいそうに思ってなぐさめに行くと、老人は平然と言った。
「このことが不幸であるとは限らない」

1年が経ったころ胡の異民族たちが城塞に襲撃してきた。
城塞近くの若者は戦いに行き、胡人から城塞を守ることができたものの、多くの若者は戦いで命を落とした。
しかし、老人の息子は足を負傷していたため、戦いに行かずに済み、無事だった。 

この話を見ていただくと、一見すると良い事だと思いそうなことが、後になってみると悪い事に変わり、悪い事だと思えそうなことが、後になってみると良い事に変わっています。
みなさんもこれまでにこういった経験はなかったでしょうか。
つまり、起きる出来事の意味は後にならないと分からないのです。 
人間万事塞翁が馬

苦しい出来事が財産となり、感謝に変わる

また、起きた出来事の意味付けがかわっていくという心の性質を示す言葉として「統合的意味付けモデル」という言葉があります。
これは、人は過去の困難に対して、「あれがあったから強くなれた、成長できた」とポジティブな意味付けをするようになる心理的傾向をいいます。
ネガティブな意味付けをしていた出来事でも、時間の経過とともに意味付けがポジティブに変わっていった。
そんな経験はないでしょうか。 
私もそういった経験があります。

前職時代、所属する部門の中でもトップクラスに厳しい人が私の上司になりました。
求める仕事のレベルが高く、細かいところまで厳しく注意されました。
「なんでこんな厳しい人が自分の上司になんだろう。最悪だ…」
そう思いながらも、必死で食らいつき、何度も叱られ、胃が痛い思いをし、何とか仕事をこなしていきました。

そんな状況が数年続きました。
そしてある時、他の人が上司になり、いつも通り仕事をすると、「かなり細かいところまで仕上げているね!しかも仕事が早い!」と褒められました。
前の厳しい上司の元で普通にやっていたことが、他の上司には凄いと褒められたのです。

その時に気付いたのは、厳しい上司の元で鍛えられた結果、周囲と比べて自分は大きく成長できていたということです。
独立した今でもあの厳しい上司の元で教わったことが仕事に大いに活きています。
あの上司の元で仕事ができたことは、今となっては財産であり、深く感謝しています。
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未来の自分から今を振り返る

この事例では、「厳しい人が上司になった」ということに対して、はじめは「最悪だ」というネガティブな意味付けをし、大きなストレスを抱えていました。
しかし時が経つにつれて、「あの上司に鍛えられて本当に良かった」とポジティブな意味付けに変わり、感情も感謝に変わっていきました。
他にも、クライアントから厳しい要求を受けて不安で夜も眠れなかったり、スケジュールがタイトなプロジェクトのメンバーに選ばれて体力の限界まで仕事をしたり、さまざまな苦労を経験してきました。
でも、こういった経験をした結果、その後に大変なことが起きてもは動じることが少なくなり、落ち着いた対応ができるようになりました。
苦しかった経験が成長につながったと実感できています。

そのため、起きた出来事にネガティブな意味付けをし、大きなストレスを抱えたり、つらいと感じたりしている時は、「後になってその意味付けは変わるよ」と考えて、一旦、ネガティブな意味付けを見直してみて下さい。

そして、「きっと未来の自分は今の自分を振り返って、あれがあったから自分は強くなれた、成長できたと言っているんだろうな」と未来の自分をイメージしてみて下さい。

すると、感情の状態が少しずつ変わっていくのが感じられると思います。

就職後、転職後につらいことがあったとしても

こういう考え方をするようになると、人生で起きる事が良い事か悪い事なのかは、結局は自分次第なんだと感じるようになります。
そして、後々人生を振り返った時に、いい人生だったと言えるかどうかは、「どういう事が起きたか」より「出来事をどう捉え、どういう感情で過ごしたか」の方が大切だということに気付くようになります。 
就職や転職は人生で大きな出来事です。
その就職や転職が正しい選択だったのかどうかは、就職後、転職後に起きる出来事に対してどういう意味付けをするかに大きく影響を受けます。
ネガティブな意味付けをする傾向にある人は、ストレスや苦しみを感じやすく、その結果「やっぱり自分はこの会社は向いてない、この仕事は向いてない」と安易な転職を繰り返したりします。 
就職後、転職後につらいことがあったとしても、「この会社を選び、こういう経験をしているのも長い人生で見れば自分の成長のために必要なことなのかもしれない」と考える。
この習慣は皆さんの感情を整え、良いキャリアを歩んでいくためには重要なことです。 
成長した自分 (2)

今回はストレスや苦しみが生じるメカニズムの一部についてお話ししてきました。
ストレスや苦しみとどう向き合うかは、良い人生を送るうえでとても重要なことです。
まずは日常の小さなストレスや苦しみからでも意識するようにしてみて下さい。