就職をした後、必ず問われるのが「仕事ができるかどうか」ということです。
「勉強ができる」ということと、「仕事ができる」ということは別物であり、勉強ができても仕事ができない人もいれば、勉強ができなくても仕事ができる人もいます。
そこで前回に引き続き、仕事ができる人とできない人の違いというテーマでお話ししていきます。
年商300億円超の企業から個人事業主まで、のべ1,200件以上の経営相談を受け、労務問題から営業、マーケティングなど、幅広い分野で人間心理と数字の両面から経営改善を行う。
その経営相談事例を基に、ビジネスで成功を再現し、失敗を回避する手法を経営心理学として体系化することで経営指導の成果を大きく高める。
また、経営心理学を体系的に学び、「経営心理士」の資格を取得するための経営心理士講座を実施。その講座の成果が口コミで広がり、日経新聞をはじめ複数のメディアから取材を受ける。金融庁や一般企業、税理士会等の士業団体などでの研修活動も行い、年間の講演回数は250回を超える。
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フォールス・コンセンサス効果とは?
コミュニケーション能力を高めるために是非知っておいていただきたい言葉があります。それが「フォールス・コンセンサス効果(False Consensus Effect)」という心理学の言葉です。
これは自分が「普通」「当たり前」と思うことは、他の人も「普通」「当たり前」と感じているはずと思い込む傾向のことをいいます。この傾向が強い人は、自分と相手の「普通」「当たり前」の感覚の違いに気付かずにコミュニケーションをとります。その結果、意図が相手にうまく伝わらず、それが原因で仕事に支障をきたしてしまうことがあるのです。
お客様を激怒させた新人さんの失敗談
ある税理士事務所に勤めることになった新人さんの話です。
お客様が独立して新たに会社を作ることになり、顧問として関わることになりました。
そのお客様の会社は3月決算でしたが、決算日の3月31日になっても税務申告書が送られてこないので、お客様が「税務申告書を下さい」とその新人さんにメールしたところ、「まだできておりません。5月中旬にはお渡しします」と返信がきました。
税務申告書は決算日から2カ月以内に税務署に提出すればよいので、3月決算の場合は5月末が提出期限なのですが、その新人さんは「言わなくても分かってますよね」という思い込みのもと、その点を説明せずにお客様にメールを返信したのです。
ところが、お客様は税務申告書は決算日から2カ月以内に提出すればいいということを知らず、決算日までに税務申告書は提出しなければいけないと思ったのでしょう。メールを見てお客様は激怒し、その会計事務所を解約しました。
新人さんはお客様が激怒した理由が分からず、上司には自分は悪くないと伝えたところ、上司からも厳しく叱られました。
会計事務所の職員にとっては当たり前のことでも、独立して初めて会社を作ることになったお客様にとっては決して当たり前のことではありません。仕事をする上では、そういった自分と相手の「当たり前」の感覚の違いを読み取って、必要なコミュニケーションを取ることが求められます。
「普通」「当たり前」の感覚はこれまでの人生経験から形成されます。
自分と全く同じ人生を過ごしている人はいない以上、自分と同じ「普通」「当たり前」の感覚を持っている人はいません。
そのため、人の数だけ「普通」「当たり前」の感覚は違います。
しかし、フォールス・コンセンサス効果が働くと、自分と相手の「普通」「当たり前」の感覚が違うことを意識せずにコミュニケーションをとり、仕事の失敗に繋がることもあります。
それが営業であればお客様に商品の価値を十分に伝えることができず、なかなか商品が売れなかったり、それが上司への報告であれば、実施した業務の内容がうまく伝わらず、上司からの評価が低くなったりします。
この点、コミュニケーション能力が高い人は、自分と相手の「普通」「当たり前」の違いを意識しながら、相手にとって分かりやすい伝え方で、意思疎通を図るために必要なコミュニケーションを漏れなく取っているのです。
「具体化の質問」でコミュニケーション能力を高める
そこで重要になるのが「具体化の質問」です。
相手の話のイメージがつかめない時、「それは具体的にはどういうことですか?」、「何か具体例はありますか?」といった質問をし、より具体的な話を引き出したり、例を挙げてもらったりすることで、話の意図を掴んでいきます。
若手スタッフの話
先日、社内の若手スタッフがマネージャーから「このお客様の株式の売買が一覧できるサマリーを作っておいて」と言われました。
そのスタッフは株式の売買に詳しくなかったので、「サマリーの様式について参考になるものがあるとありがたいのですが」と伝え、マネージャーが昨年の株式売買のサマリーを参考資料として渡しました。
この質問をしたおかげで、その若手スタッフはマネージャーがイメージしていた通りの資料を作ることができたのです。
これは相手のイメージを正確に把握するための優れたコミュニケーションだと言えるでしょう。
「目的の質問」でコミュニケーション能力を高める
マネージャーの話
先日、弊社のマネージャーがお客様から「中小企業診断士で誰かいい人を紹介してもらえませんか」という依頼を受けました。マネージャーは「中小企業診断士さんにお会いする目的は何ですか?」と「目的の質問」をします。
お客様は「この助成金を取りたいんですよね」と助成金の話をされたので、マネージャーは「助成金は社会保険労務士さんの管轄なので、中小企業診断士ではなく社会保険労務士の方をご紹介しましょうか?」と答え、お客様に社会保険労務士の方をご紹介し、とても喜んでいただきました。
仕事ができる人になるためのポイント
▶フォールス・コンセンサス効果に留意し、自分と相手の「普通」「当たり前」の感覚の違いに留意し、相手の立場に立って、相手に分かりやすいコミュニケーションを心掛ける。
▶相手の意図を具体的に把握できない場合は「具体化の質問」を使って、できるだけ具体的に相手の意図を把握するようにする。
▶「目的の質問」を使って相手の言葉の背景にある真意を把握することで、相手の真意を満たす対応を取る。